『サイレンス。』
このシリーズの中でも今作は特に渋い印象があり、それまでのキャッチな曲たちにはない、わかりにくい面白み、があるので好んで選んでいます。サックスをフィーチャーした7「エウロペ」の、静かなアーバンブルーが後半に表情を変えてゆく様や、8「半島の東」のストリングスが霧のような景色を描きながら、続いて9「未完成のラブストーリー」が吹いてくる流れなど渋くて本当に好きです。どれもキャッチじゃないからこそ低く静かにこころに流れてくるようで。そしてこの中盤の流れが10「Christmas In The Silent Forest」(by ilaria graziano)にゆきつくと、視界が一気に開けて、この曲の鮮やかな音の色彩はこの文脈で一層盛り上がる気もしますね。
他に、静かな曲で本当に素晴らしいのは12「Sacred Terrorist」。当に神秘的で、流麗な音の高みが感じとれる曲なので、弦楽器のこころのみせどころです。一方15「スマイル」の冒頭の単音にこめられた空虚な行間、この寂しさには捉われました。更にその同じフレーズが徐々に動き出してゆくコンポジションは菅野よう子の審美眼を感じずには入れられません。ちょうど灰色の記憶に色彩が戻ってくるようなこの曲に続くのは16「flashback memory plug」。いい流れです。ilariaが歌う終曲17「Dew」もヴォーカルトラックをあえて抑え、幽玄な浮遊感をもたらす静的な曲。それが攻殻シリーズを表してきた女声のしなやかさを違う側面から引き出します。
序曲「The End Of All You'll Know」に戻ったとき、この曲のわびさびをもった質感が今作をよく表していたなと思います。そして圧倒的な音楽性の厚みを感じる名曲2「トルキア」(by gabriela robin)は今作最大の求心力ですが、3作目のこの渋いアルバムテイストの中で、この曲のマニアックさは調和し、ドラマチックさはひきたっていました。
因みにアタック・チューンでは4、5、6もあります。特に4「レーザーシーカー」のロックは非常にカッコイイです。